胃癌化学療法のエビデンス

日本では胃癌の発症率が高く、1年間におよそ10万人が
新たに胃癌と診断されています。

 

早期発見などの診断技術が進歩してきているため、
早い段階での外科的な治療が中心となっていますが、
切除不能な進行癌や術後の補助療法などには化学療法が行われます。
 
化学療法剤しては、これまで5-FU(フルオロウラシル:Fluoruracil)が
多く使用されてきましたがここ数年の間に、
日本国内で大規模な臨床試験が実施されています。
 
その結果からS-1+シスプラチン(Cisplatin:CDDP)の
延命効果が高いことが示され、胃癌治療ガイドライン2010年10月改訂版でも
「現時点では初回治療としてはS-1+シスプラチン療法が
生存期間の延長に最も寄与すると考えられる。」と明記されました。

 
胃癌は日本人に多い疾患であり、欧米での臨床試験の結果を
そのまま用いることはそぐわない面もあるため、
日本独自の臨床試験が多数進められてきました。

 
このうちSPIRITS試験およびJCOG9912試験で
大きな成果をあげることができました。
 
SPIRITS試験は2002年から2007年にかけて、国内38施設が参加して実施され、
その結果が2008年に公表されました。
 

日本語でも詳細が報告されています。
 

その結果によると、S-1単剤に比べてS-1+シスプラチン群では
全生存期間を11ヶ月から13ヶ月に延長することが示され
(ハザード比0.77 CI0.61~0.98 p値0.00366)
有効性が証明される結果となりました。
 
2000年から2007年にかけて行われたJCOG9912は5-FU+シスプラチン+CPT11、
それにS-1単独投与との比較ですが、その結果もS-1の有効性を示しました。
 

S-1について

S-1は5-FUのプロドラッグであるテガフールと、
ギメラシル、オテラシルカリウムの3剤を配合した
経口のフッ化ピリミジン系の抗癌剤で、
5-FUの血中濃度を上げて抗腫瘍効果を増大し、
同時に消化管毒性の副作用軽減を目指して開発されてきた薬剤です。
 

経口投与ですので、現在主流となりつつある
通院外来での処方に適しています。
 
S-1は開発コードで、1999年にTS-1という名称で承認販売され、
胃癌ばかりではなく、非小細胞肺癌、大腸癌、手術不能
または再発乳癌、膵癌などに適用されています。
 
胃癌治療ガイドラインでの推奨の背景となった
大規模臨床試験の成績ばかりではなく、術前・術後化学療法適用が
有効であったとする症例報告が多数発表されています。